整形外科 手の外科センター 手の外科の歩み - 診療科目・内容

手の外科の歩み

(労災疾病等13分野ホームページより一部転載)

アメリカに始まった手の外科

第1次世界大戦後手の治療に打ち込んでいたBunnellを中心として、第2次世界大戦中にアメリカで手の外科が生まれ、大戦後の1945年にアメリカ手の外科学会が設立されました。彼の教科書Surgery of the Handは戦後まもなく日本にも輸入され、各地で手の外科診療班が結成され、1957年には日本手の外科学会が設立されました。その後の日本における手の外科の発展は輝かしいものであり、多くの国際手の外科学会も日本で開催されるようになりました。また切断指の再接着や外傷による手指欠損手の再建などは世界に誇りうる分野となっています。

初めての指再接着は日本で成功

1959年、奈良医大整形外科で恩地・玉井らが右大腿の不全切断例の血行再建に成功しました。1963年には井上・豊島による手関節部での完全切断再接着成功があり、さらに1965年には小松・玉井は母指完全切断例に対し、固有手部における世界で最初の再接着に成功しました。それが契機となり、1973年には日本マイクロサージャリー学会が設立されました。その後1974年、玉井らは第1足趾の母指への移行症例を報告しました。以後手指欠損手に対する再建として、足趾の移行報告が続きました。1977年、新潟大学の吉津らは指関節再建のため、血管柄付き第2足趾関節移植を世界で最初に行い成功しました。1980年にMorrisonによって考案されたwrap around flap(部分母趾移植)は、1981年の土井に始まり日本で改良され、わが国では最もスタンダードな母指再建法となりました。

進歩を続ける手の外科

20世紀初頭にアメリカで産声をあげた手の外科も、二つの世界大戦をへて20世紀の後半に多くの進歩を成し遂げました。手の解剖に対する知識の進歩とその損傷の特殊性に対する理解が進み、戦傷や労働災害による損傷手に多くの再建法が確立されています。

この20世紀後半の最も画期的な出来事は何といってもマイクロサージャリーの出現につきます。切断指再接着に始まり多くの遊離組織移植が開発され、手の外科や再建外科の世界に大きな進歩がもたらされました。当初は限られた施設でしかできなかった切断再接着も現在では多くの施設で行われるようになりました。また、骨肉腫などの骨の悪性腫瘍はその多くが10代の子供に発生しますが、かつては患肢切断がやむを得なかった症例でも、組織移植によって患肢温存と機能的再建が可能となりました。これらの手術も開発以来30年以上が経過し、多くの症例の長期成績が検証されております。

80年代から登場した新しい治療概念に、最小侵襲手術というものがありますが、これは従来は大きく切開して展開していた手術を内視鏡や特殊な補助器具を使用して、小さな傷で周囲組織の損傷を最小限にしながら手術を遂行するという概念です。整形外科領域ではその代表が関節鏡手術ですが、当初は膝関節に始まった関節鏡手術も現在は手関節(手首の関節)やその他の小さな関節にも応用が進められており、当科でも骨折や靱帯損傷などの手術に手関節鏡を使用し確実な診断と正確な手術を行うように心がけております。内視鏡下の手術は関節外でも広く行われ始めており、今後も発展が期待されます。

基礎実験の臨床への応用

屈筋腱修復に関する知見の集積と臨床応用

屈筋腱(指を曲げる腱)損傷の治療(用語解説参照)は、癒着との戦いであり、縫合直後から早期運動療法を行うための各種の基礎的データが動物実験などにより集積されてきました。まず、屈筋腱自体が周囲からの癒着を起こさずとも腱自体の修復能力で十分に治癒することが証明され、続いて屈筋腱縫合後の組織修復の過程が経時的に詳細に検討されました。さらに各種の強固な縫合法および縫合材料が開発され、現在では縫合直後から自分の力で指を曲げても大丈夫なほどの縫合強度を持つ各種縫合法が用いられています。また、術後は屈筋腱縫合後の縫合部強度の計時的な変化を反映したリハビリプログラムが施行されています。今後は腱の治癒過程を促進する方法の検討が必要となりますが、分子生物学の進歩によって可能となった、組織成長因子の投与などが動物実験レベルで検討され始めています。

末梢神経損傷に関する知見の集積と臨床応用

神経損傷において解決しなければいけない問題点として、

  1. 正確な神経再生路の獲得
  2. 神経欠損の修復法の確立
  3. 損傷近位部が利用不可能な場合の修復法の検討

などがあげられます。

1に関しては直径数mmの神経でもその内部には数千本の神経線維が含まれておりそのそれぞれが運動神経であったり、知覚神経であったりと異なった性質を持っており、最終的に到達すべき終末器官もそれぞれ異なっています。手術用顕微鏡で縫合しても直径数ミクロンの神経線維一本一本を全て正確に接合することは不可能で、間違った方向への神経線維の再生(misdirection)が生じてしまいます。運動線維と知覚線維の識別や神経断面の正確な観察による神経束パターンの適合などによってある程度は解決可能ですが、misdirectionを極力少なくする縫合法の開発は今後も検討が必要です。

2に関しては、直接修復不可能な神経欠損に関しては、自家神経移植(用語解説参照)が一般的に行われていますが、移植神経採取部の知覚脱失や神経種形成の可能性などドナー神経採取に関連する問題があります。これを回避するために、人工神経の開発などが行われています。

3に関しては腕神経叢引き抜き損傷(用語解説参照)などで、損傷近位部の神経が使用できない場合、他の健常な神経の一部を末梢の神経断端に縫合するいわゆる変則的神経縫合が行われてきました。例えば肋骨の下にある肋間神経を上腕ニ頭筋の支配神経に縫合して肘の屈曲を再建したり、健常な神経の一部を損傷遠位部の神経断端に縫合して運動を再建するといったことが行われています。これは、人体の本来の機能を作りかえるわけで、自然の摂理に逆らった手術とも考えられますが神経損傷の近位部に利用できる神経が限られている場合には有効な再建方法であり、最近は安定した成績が得られるようになってきています。近年、実験的に末梢神経再生路の詳細な検討が行われ、健常神経の横に損傷された神経の遠位部を縫合するようないわゆる「端側吻合」でも有効な神経再生が獲得されることが明らかになっており臨床でも応用されています。

今後の展望

誕生から60年以上を経過し、円熟期に入ったと考えられる手の外科ですが、今後も各種基礎研究分野とも共同してより一層の発展が期待されます。

材料工学、加工技術の進歩により骨折の内固定材料(プレート、スクリューなど)は、近年手指の骨折に専用に用いられる優れた器械が開発され、強固な内固定による早期のリハビリが可能となっています。また、屈筋腱縫合の項でふれたように縫合糸などの手術材料も進化し続けています。

組織培養の進歩によって関節軟骨などの欠損を自己組織の培養によって損傷部の形態に合わせて作り出すいわゆるオーダーメードの組織修復も検討され始めており、tissue engineeringは幹細胞の利用による再生医療とともに近年脚光を浴び始めてきました。

近年、分子生物学の進歩に伴い、各種の成長増殖因子などが利用可能になりましたが、これらを各種薬物送達システム(DDS)と組み合わせて使用することにより、骨、神経、腱などの損傷の修復を促進させる試みがすでに始まっています。

また、外傷などで失われた手の再建として、ロボット義手の開発や脳死ドナーからの同種手移植が実際に行われています。ロボット義手に関しては切断肢の神経電位をひろって筋電義手を操作することにより義手に随意運動を可能とさせる技術ですが、知覚のフィードバックや繊細な運動の復元が解決すべき問題です。同種手移植に関しては1998年、フランスのリヨンで第一例目が施行されて以来、2009年までに世界中で38例52部分の移植が行われたと報告されていますが、我が国ではまだ行われていません。生命維持臓器ではない手の移植のために感染や悪性腫瘍発生のリスクを伴う免疫抑制療法を永続的に行わなければいけないことや、手や指を採取することによる外見上の死体損壊の問題があるからではないかと思います。今後は我が国でも手移植が他の臓器移植と同様に行われるようになっていくと考えられます。

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